企業や自治体で導入が推奨されるサービスデザインやデジタルトランスフォーメーションをはじめ,教育機関におけるアクティブラーニングやSTEAM教育など,他者(ユーザー)理解や共感を通じて潜在的な問題(ニーズ)を見つけ出し,試行錯誤を繰り返しながら解決を目指す創造的発想法が様々な場面で活用されている。その実行プロセスの一つとしてデザイン思考がある。教育機関では,プロジェクト型学習や問題発見・解決型学習において,デザイン思考の導入が図られ,企業や自治体においても,デザイン思考による製品やサービス開発等を行うプロジェクトの実施や専門部署が設置されるなど,デザイン思考は,様々な活動において欠かせないものとなっている。
デザイン思考を活用した既存の取り組みでは,その表層的な概念ばかり注視され,創造的発想法の根幹を成す他者理解や共感によって潜在的な問題を見出すためのアプローチが十分に活かせていないことが指摘される。
とりわけ,諸活動によってデザイン思考の実行プロセスが異なることについて,筆者はこれまでに地方自治体や企業等で実施してきたデザイン思考の理解を目的とした研修やワークショップを通して,デザイン思考への理解と享受に違いがあることがわかってきた。そこで本研究では,筆者がこれまでに企業や自治体に向けて実施してきた研修やワークショップの事後アンケートの情報から企業と自治体のデザイン思考に求める要素を抽出する。それらを比較した後に,それぞれのデザイン思考に対する理解と享受の具体的な偏差を提示することを目的とする。