1 はじめに
ランドスケープデザイナーと建築家の協働による作品は近年増加傾向にあるが、様々な理由からそのコラボレーションは容易でないことが知られている。2008年4月から2009年3月にかけて、東京都区内に位置する住宅団地の建替え計画プランを検討するプロジェクトにランドスケープデザイナーと建築家と地理情報学の専門家が集うことになった。その結果をまとめた報告書の中では、コモンやランドスケープの継承の度合いを変えた複数の建替えプランが提案され、コモン継承の重要な指標の一つとして、樹木の保全(既存樹木の伐採本数と残存本数)の比較が行われた。この過程を通じてランドスケープデザインと建築設計に関わるデータをデザイン的に共有することには相当のノウハウの蓄積があることが分かった。一方で、データを空間的な位置情報として扱っていないため、例えば、新しく計画された建物と既存樹木の重なり判定を行うことは著しく困難で、最終的には目視で判別し作業を行うしかないという実態を知ることができた。
そこで本研究では、住宅再開発をはじめとする都市計画案の立案の際に、ランドスケープデザイナーと建築家が協働するのに役立つツールを開発することを目的とする。そして、上記の具体的な建替え計画プランに試行的な適用を行い、その可能性や問題点について検討する。ツールの開発に当たっては、オープンソースのGISソフト群であるFOSS4G(Free and Open Source Software for Geospatial)を活用し、今後の協働事例において広く利用可能なシステムを目指した。
2 開発システムの概要
開発システムの基盤には地理情報を扱うサーバソフトであるGeoServerを用いた。これにデータベース管理のためのPostGIS、及びインターフェース管理を行うOpenLayersなどを組み合わせたシステムとした。ここで用いるソフトは、全てFOSS4Gである。これらを組み合わせて運用することで、Webベースで地理情報を入力、管理、解析、出力することが可能となった。そこで、入力された実際の樹木データと複数の建物データを、Web上でのレイヤ切り替えにより、リアルタイムで重なり判定を行うプロトタイプのシステムを開発した。
具体的に入力する樹木データは、位置(緯度、経度)、樹種、樹高、胸高直径、樹冠の大きさ、写真などである。建物データはCADにより作成されdxf形式で出力したものである。
3 結果
プロトタイプの都市計画支援ツールの解析結果の1つを図1として示した。ここでは、新たな建替え計画プランの建物により伐採せざるを得ない樹木が自動判定され、その樹種や本数などの情報がweb上に表示されている。その結果をCSV形式でダウンロードすることも可能である。
また、このシステムを拡張し3次元データに対応させることで、従来の2次元の図面による目視の判別では困難であった、幹は重ならなくても樹冠が建物と重なるといった状況の判定も可能である。